Dr.工程PROをコアに金型加工者向けポータルサイトを構築、
3次元データを迅速かつ正確に設計から現場へ
山形カシオ株式会社様(以下敬称略)がDr.工程PROの本稼働を開始したのは2004年の4月。
そのねらいは、Dr.工程を中核とした「金型加工者向けポータルサイト」を構築することであった。
最重要ポイントは、三次元データ(XVL®)を正確にかつタイムリーに製造現場に伝達することである。 もともと生産技術力に定評のあった同社にとって、この仕組みを構築したねらいが何だったのか、
またDr.工程の導入によりどのような効果があったのかなどについてお話しを伺った。
部品事業部について
後列は左から鈴木様、三澤様、遠藤様
前列は左から細谷様、佐竹様
Dr.工程の導入部門である部品事業部は、時計・携帯電話をはじめとしたプラスチック成型品の製造(金型〜成形〜加飾)を手がけている。
2005年の「日経ものづくり大賞」、2007年の「ものづくり日本大賞」優秀賞(内閣総理大臣表彰制度)などの受賞歴が示すとおり、
生産技術は内外から高く評価されている。
事業部全体の社員数は約230名、その中で金型製造に関わる人数は約90名である。
Dr.工程導入のきっかけ
型部門(部品事業部)の工程管理はもともとExcelベースのものであったが、金型の生産量増加に伴い、管理手法として限界を迎えていた。
そのため2004年の金型工場増設を機に本格的な工程管理システムの導入検討を開始(2003年)、複数のパッケージソフトを比較検討した上でDr.工程PROの導入を決定した。
製造現場には一人一台の
クライアントを配置
導入の決め手としては主に2点あった。
第一に現場担当者の共感を得たこと、操作性がExcelベースの使い勝手に最も近く、これなら使っていけそうだという安心感があった(細谷)。
もう1点重要なポイントとして、工程設計者から加工に関わる様々なデータを加工現場に伝える機能(ファイルリンク機能)が標準で備わっていたこと(三澤)であった。
というのも、当時、山形カシオ社内では製造現場の図面レス、3次元化がまさに進行中であり、
その一環として製造現場が3次元データに容易にアクセス出来る仕組み、いわゆるポータル機能を必要としていたからである。
このようなポイントが「これは使えそうだという直感(三澤)」につながり、導入を決定することとなった。
現時点での生産量は新型が月に30型(修正・改造等除く)。工程設計が二人(2クライアント)、現場クライアントは一人一台ベースでPCを配置し、
合計80台のクライアントをフル活用している。現場はどのパソコンからでも進捗状況や3次元データ(XVLデータ)を参照できるようになっている。
Dr.工程導入による現場の改革
Dr.工程の導入により、加工現場には二つの大きな変化があった。
一つは、スケジュールの可視化による意識の変化である。
Dr.工程導入前は、加工の進め方や優先順位を現場の判断に任せていたが、優先順位の徹底が難しく、時にスケジュールの遅延を招くこともあった。
しかし、導入後は加工スケジュールが共有できることで、短期的には現場の裁量に任せつつも大枠のスケジュールは厳守できるようになった(遠藤)。
もう一つは、工程単位での工数見積である。
もともと一日単位で加工スケジュールを決めていたが、正確な加工日程を立案するには時間単位で工数を見積もる必要があった。
Dr.工程導入当初は全くのカンで工数を決めていたが、今は過去の加工実績の蓄積や周辺技術の導入により見積精度は大幅に上がっている(細谷)とのことである。
Dr.工程をコアとした数々の取り組み
山形カシオではDr.工程の標準機能にいくつかの機能拡張を加えている。
主なものを以下に挙げるが、共通するねらいは製品開発の立ち上げ短期化のために設計段階などでの成果物(3次元データ、加工データなど)を、
可能な限り工程管理に活用できる仕組みにすることであった(三澤)。
一つ目は3次元データ(XVL)との連携強化である。
設計側で作成した3次元データ(XVL)や部品表の取り込み・置き換えを出来るようにした。
このことにより、改造修正が発生した場合でも加工現場では常に最新の3次元データにアクセス出来るようになり生産性が大幅に向上した。
二つ目は、電極データの取り込み強化である。CAD/CAMデータから電極工程、予測工数を取り込めるようにした。
金型製作においては電極の本数が多くなるなどの理由で管理が難しいとされるが、
電極工程が正しく日程計画に含まれていないと正確な日程計画は組めない(遠藤)と判断した。
(図1)
三つ目はマシニング機(MC)の加工実績の自動取り込みである。
以前はMCの夜間無人運転の実績を翌朝担当者が一つ一つ完了入力をしていたが、
これを自動的に取り込まれるように改善し無駄をなくした(遠藤)。
これらの機能拡張により、上流(設計)で発生するデータや下流で発生するデータがダイレクトにDr.工程に取り込まれる仕組みが構築された(図1参照)。
今後の展望
山形カシオでは、Dr.工程を製造ポータルのコアとしてさらに活用していく計画である。
これまで以上に製造現場が必要とする様々な情報を現場がアクセスできるように発展させていく予定だ。また、人材育成への活用も検討している。
弊社に対しても様々なご要望を頂いた。
まず1点目として、製造ポータルの基盤としてさらに拡張していくことである。
情報の流れとして工程設計から加工現場だけでなく加工現場間でのコミュニケーションも重要であり、
これらを円滑にするためのツールとしてさらに発展させてほしいという要望である。
また、基本機能に関しては、@一品一様が多いのでどうしても工程設計もゼロからというのが多くなる。
工程設計の基本となるパート図の作成が遅れると、加工工程(特に最初のCAM工程)に支障が出るので、
さらに簡単に作成できるよう研究してほしい(遠藤)。A納期超過が判明した場合、どの工程がボトルネックなのかをもっとわかりやすく表現してほしい。
たとえば、だれが何時間残業すべき、等のガイドが出るとより実践的だ(細谷)。
などのご要望を頂いた。
全体の話を通して感じたこととして、Dr.工程がすでに製造現場の中核に位置づけられていることだ。
基幹システムのベンダーとして、さらに研究を重ねて「止まらない仕組み」を追求していかなければならないと痛感した。
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XVLはラティステクノロジー株式会社が開発した3次元データ用のファイルフォーマットです。